Vol.665 13年8月17日 週刊あんばい一本勝負 No.658


「うちのごはん」はすぐれものだ

8月10日 大雨洪水警報が出ている。県内の一部の地域だけ被害甚大で、なぜか秋田市は朝から好天。局地豪雨というのは怖い。珍しくこの週末は仕事だ。9月から少し舎内の態勢が変わるため、その準備。この荒れ模様ではいくらなんでも山は無理。太平山野田口コースを友人と2人で登る予定だったが中止に。一般的なコースではないため、小さな事故でも孤立の恐れがあり、対応できないからだ。昨日からラジオを聴いていても、ひっきりなしに割りこみで「洪水情報」が入り、いきなり番組が中断される。県外の方からはお見舞いの電話まで頂いた。申し訳ない。というわけで週末は事務所にいます。

8月11日 日曜なのに仕事。毎日曜日、山へ行くようになったのはリーダーのSシェフが土曜日に陶芸教室があるためだ。そのため日曜登山が慣習になった。今日のように山がないと、なんかヘンな感じ。今日の夜、カミさんが旅行から帰ってくる。明日からは普通の生活に戻れそうだが、一人暮らしも何事もなかったようにふだん通りに過ごした。3食とも自分で作り、外食はなし。洗濯は3回したし、掃除も週一でこなした。しんどかったのは毎日の食事のメニュー。主婦のいらだちがよく分かった。

8月12日 明日からお盆休みなのを、すっかり忘れていた。とりあえず13日から15日までの3日間、お盆休みと今決めた。身辺が公私ともバタバタしている。マジでお盆休みのことを失念してしまった。いやはや申し訳ない。何度もしつこいが9月から仕事の態勢が少し変わり、事務所の改修工事も始まる。その準備のアレコレで少しパニックなのだ。3日間仕事は休むが、親族の帰省や友人たちの来訪が多いのもこの時期、どこかに隠れていたい心境だ。頼みの「初盆」も実家の弟家族が旅行するらしく、中止。もう事務所以外に行きようがない。この暑さでは外にも出たくない。仕事をしているしか手はないか。

8月13日 お盆休み初日。野球は好きだが高校野球には興味がない。だから朝から仕事をしている。高校野球が嫌いなのは昔からだ。甲子園信仰が強すぎるのがうさんくさい。ピンチになると無理やり作り笑いする慣習も気持ち悪い。負けると砂をかき集める姿も気色悪い。他のスポーツと人気にハンディがあるのもしゃくに障る。メディアや大人たちのせいだ。野球だけが高校スポーツのなかでアドバンテージありすぎ。ホッケーもボクシングもダンス部も同じスポーツじゃないか。監督といわれる人たちも似たような顔つきで無個性だ。たぶん指導方法も似たようなものなのだろう。新聞社も特別扱いはそろそろやめるべきではないのか。

8月14日 イケダハヤト著『旗を立てて生きる』読了。若い人たちの働き方の本を立て続けに読んでいる。この本は晶文社の「就職しないで生きる」新シリーズの1点目の本だ。80年代前半、同社から出たレイモンド・マンゴー著『就職しないで生きるには』には大きな影響を受けた。その後のシリーズもむさぼるように読んだ。このシリーズの30年ぶりの新バージョンがイケダ氏の本なのだ。晶文社の経営母体はすでに変わってしまったが、編集者は昔在籍した50代の人たちが関わっているようだ。イケダさんの本はわかったりわからなかったり。私たちとの差は「希望」の有無なのだが、若者の考えることは今も昔も似たようなもの。40年前は自分もこれと似たようなことを考えて起業した。起業という言葉はなかったが働き方も、変化と不易の間を揺れ動いている。

8月15日 一人では無理な仕事というのがけっこうある。でも回遊魚のようなもので、休みだからといってじっとしていられない。秋に出る「土葬」に関する資料を集めに県立図書館へ。館内は老若男女でいっぱいだった。図書館に来るたび「本は買うものでなく貸りるもの」と再認識する。商売敵だが、しょせん無料にはかないっこない。ついでにお隣の児童会館にも寄り、あるイベントのための会場予約をしてしまう。お昼時だったが官庁街はどこもお休み。家まで帰りカンテンにリンゴの昼食。ホッと一息。でも暑い。午後からは家に閉じこもってDVD鑑賞。ウディ・アレン監督『恋のロンドン狂騒曲』はまあまあ。ジャック・レモン主演『モリー先生との火曜日』はなかなか。『アパートの鍵貸します』の若者がこんなふうになるのか。俳優ってすごいね。

8月16日 一人暮らしの間、お気に入りの「惣菜」を見つけた。キッコーマンがつくっている「うちのごはん」シリーズだ。これは便利で味も悪くない。料理素人には中華風だけはハードルが高い。餡かけだ、中華風調味料だ、火力が弱い、と敷居が高いためだ。それがこの惣菜の素を使えば、基本的には白菜やナス、豚肉やキャベツなどの食材一点あれば、あとはフライパンで中華風料理ができてしまう。化学調味料は無添加だし、二人前のソースが入っているのも親切だ。この惣菜の素のせいで、レシピが一挙に広がった。外食したいという気が失せた。我が家の台所の棚には「うちのごはん」コーナーがある。冷蔵庫のあまりものの野菜をみるとにやけてしまう。
(あ)

No658

酒屋へ三里、豆腐屋へ二里
(福武書店)
安岡章太郎

いい書名だなあ。原典は「狂歌」にある言葉のようだ。著者は寄席の落語で聞いたという。意気上がらぬ貧窮の士の山家暮らしのこっけいさを表したものだ。心筋梗塞を患い、半年に及んだ入院生活とその予後の日々を淡々と描いたエッセイ集である。オビ文には「虚実皮膜の内に描いた最新連作集!」とある。このぐらいの大作家になると、何気ない日常を描いたエッセイ集も、いつのまにか珠玉の「短篇小説」になってしまうのだろう。それはともかく、この本の刊行は1990年。まだバブルの余韻が残っていた時代だ。最近、古本屋で見つけて、そのあまりに豪華な造本に驚いて買った。田村義也の装丁による箱入り背丸上製本だ。版元の福武はベネッセと名を変え出版からは既に足を洗っている。定価は1800円だが古書価は500円。しかし、こんな豪華な箱入り文学本は、何部売れれば採算ラインに乗ったのだろう。いまこの本を出すとすれば、まちがいなく並製本でしかできないだろう。本が売れないからだ。定価1500円以下で部数は2千部以内だろう。いや中身も十分おもしろかったのだが、やはり造本の豪華さに、出版界のこの20年間の盛衰を実感させられた見本のような1冊だ。同じころ開高健の「シブイ!」という箱入り豪華本も買ったのだが、これも中身は身辺雑記エッセイ。今なら最初っから文庫本にしかならない。版元はTBSブリタニカで、この版元も今はない。時代を感じる本だ。

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