Vol.666 13年8月24日 週刊あんばい一本勝負 No.659


経理と受注管理の勉強中デス

8月17日 9月から経理と受注管理をやることになった。この数週間、ほとんど新人研修期間のような日々を送っている。毎日特訓を受けているだけでなく、家に帰っても頭の中で数字や複雑な操作をシュミレーション、勝手にパニクっている。土曜の今日も特訓。午前中は前任者に休日出勤してもらいレッスン。この年になってまったく新しいことを覚えるのはシンドイ。でもなんだか新入社員になったようなフレッシュな気分も味わっている。就職したことないから新入社員の気持ちなんて分からないんだけど。

8月18日 日曜日は2週間ぶりに山へ。青森・深浦にある白神岳。標高は太平山と同じくらいだが、山が深いので登りだけで4時間、下りも3時間半とけっこうしんどい山だ。全国区の山なのにわずかな登山者にしか会わなかった。これは天気が悪かったからかな。雨は降りそうで降らず蒸し暑さとアブとの戦い。下山後、温泉に入ってのんびり、とはいかず急いで家へ。今日は長女の家族が帰省中なので一緒に夕食をとりたい。どうにか間に合った。明日は飛行場まで送っていく予定だが、珍しく朝からびっしり来客の予定。その合間を縫っていくしかない。白神の山なかでも、経理と受注テーブルの数字が頭の中に渦巻いていた。この戦いは今月いっぱい続く。しんどいけど頑張るぞ。

8月19日 今週は間違いなく「経理と受注テーブル」の日々になりそうで憂鬱。でも新しいことを覚える喜びもちょっぴり。それにしても自分のやってきた会社の中身が「こんなふうになっているのか」と気がつくことも多い。って40年もやってきた人間のいうことか。ま、いかに人任せ、ノーテンキな経営者だったかということだ。
16日、「青空文庫」の創立者の一人、冨田倫生さんが亡くなった。難病で、アメリカでの手術を受けたと聞いていたが、享年61、若すぎる。最近では山本周五郎と吉川英治の著作権が切れ、電子テキスト化できることをことのほか喜んでいたらしい。先日の戸井十月さん同様、いつでも会えると思っているうちに、またひとり身近で尊敬する人がいなくなってしまった。

8月20日 友人の山岳ガイドRさんがクマに襲われた。かなりひどく顔に傷を負ったようだ。ドクターヘリで運ばれ現在秋田市の病院に入院中。見舞いに行った人の話だと「事故前より元気」だそうだ。よかった。Rさんはその辺の山ガイドとはランクの違うプロ中のプロ。マタギの血をひく山人なので、登山道のある道を歩いたりはしない。クマの巣窟を選んで歩くような人だ。だから襲われたと聞いても誰も驚かない。驚かないばかりか、「これで10年はRさんの武勇伝を聴かされる」と嘆くものあれば、「襲ったクマのほうがかわいそう」と心配する人も。Rさんなら復讐に向かうのはまちがいないからだ。クマに襲われたことが勲章になってしまう人が、秋田にはまだいる。これってすごいことだよね。

8月21日 毎日が新入社員状態。なのに長女家族の帰省に続き、今度は長男が唐突に帰ってきた。昨夜は市郊外の河原でキャンプ中のSシェフの陣中見舞いに顔を出した。そのまま宴会に参加する予定だったが、途中で返ってきた。息子を連れ近所の寿司屋へ行くためだ。その夕食をすませ、2人だけでもう1軒をはしご。帰って早々と寝床に入ったのだが、山口果林著『安部公房とわたし』を読みはじめ、けっきょく眠られなくなり読了。そんな面白い本ではないのだがゴシップ好きの血が騒いでしまった。安部公房に関する本だが、巻頭に著者のヘアヌード写真(安部が写したもの)が載っている。すごいのか、やり過ぎなのか、これまた唐突で、よくわからない。

8月22日 朝晩ちょっぴり肌寒さを覚えるようになった。お盆が終われば秋、という雪国の格言は生きている。毎日、雑用仕事を午前中に片付け、午後から「新入社員」になって3週間近くになる。経理も受注テーブル管理も何度教わってもスムースにできない。教える人の舌打ちが聞こえるほどだ。なんとも辛い。ずっと人を使う立場だったので気がつかなかったが、使われる身の厳しさと憐憫(自分への)がいや増すばかり。それでも昨日あたりから少しずつ全体像が見えてきた。やっていることの細部しか見えず、自分の作業の意味がわからないというのが実感だったが、ようやく数字と手順と成果が結びつくところまできた。早く鼻歌まじりでパソコンに向かえるようになりたい。

8月23日 昨日は複雑なデータによる伝票操作の方法を教えてもらった。まったく理解できない。基礎的な経理や受注管理すらできないのに、これは高度すぎ。でも実際には9月から私一人でこのデータ管理をしなければならない。時間はない。他にも覚えなければならないことが山積み。今日はスキャニング(ポジやスライド写真の)と事務所の書類置場の位置確認(それも知らないのだ)作業。毎日、夜になると、こんなんで大丈夫かジブン、と不安になり、眠られなくなる。生まれて初めて味わう「新人社員になった」気分だ。多くのサラリーマンはこんな体験をしながら大人になってきた、と思うことにして、しばらく必死に食らいついてみよう。
(あ)

No659

虚空の冠
(新潮文庫)
楡周平

文庫で上下巻の小説だ。はじめて読む作家だが、サブタイトルが「覇者たちの電子書籍戦争」とある。このテーマだと問題なし、迷わずに読みはじめた。それにしてもサブタイトルがなければ、何の本かさっぱりわからない。ここが弱点ではないのか。物語は、終戦直後の日本で、若き新聞記者がある事件に巻き込まれる。そこでの密約をきっかけに、彼はメディアの出世階段を登りだす。そして野望を果たした男は、ついに電子書籍ビジネスにまで手を伸ばし始めた。かつてテレビと出版のメディアミックスを成功させた男が電子書籍でも勝てるのか。まさに時代を予言するエンターテインメントなのだが、焦点はもっぱら過去の出来事であるメディアミックス(テレビと出版)あたりにあり、肝心の電子書籍に関しての記述は後半ちょっぴり出てくるだけなのが不満だが、出版やテレビの業界にも正確な知識と見識を持っているので、うそくささのない物語に仕上がっている。本書にはもうひとつ伏線がある。伝書鳩だ。この鳩の飛ぶ姿をなぞらえた書名だったのだ。最初と最後に伝書鳩が重要なファクターとして登場する。これ以上は、これから読む人のために言えないのだが、伝書鳩が物語の重要なカギを握っている小説というのも珍しい。

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