Vol.672 13年10月5日 週刊あんばい一本勝負 No.665


今年の10月1日は特別な日

9月28日 ふつうに本を出す仕事以外にも、自費出版の文章のリライト、聞き書き執筆まで仕事の幅はけっこう広い。これも仕事のうちといえばうちなのだが、なかには遺書の代筆や記念誌へのあいさつ文の文案、結婚式のスピーチ原稿まで依頼がある。それぞれに依頼主の切羽詰まった事情があり、断るわけにいかず引き受けてしまうことが多い。こういう仕事は嫌いではない。いろんな人生を演じる役者ほどではないが、依頼者の立場になりきって文章を書くから、いろんな想像力をふくらませ、自分でない他者になりきってしまうことができる。このへんが醍醐味なのだろう。昨日もそんな類のお仕事。時間はかからなかったが、書き終わるとぐったりと疲れた。やはり他人になりきるのは体力がいる。

9月29日 やっぱり秋の山はいい、サイコ―だ。泥湯温泉から登り始め、小安岳に寄り高岳へ。そこから山伏岳まで縦走し、川原毛に降りてきた。8時間弱歩いたが、歩くのが全く苦にならなかった。青空で雲がきれいだった。先頭だったのでヘビには2回も会ったし何度か滑って転んだ。でも気にならないのは秋の空と空気のせい。食欲も旺盛で、シャバのストレスをここで一気に「倍返し」。みようみまねでセットした「留守電」も、山から電話したらうまく機能していた。山で自分の声を聴くというのも、なかなか乙なもの。

9月30日 義母が骨折して入院しているので、妻の妹が東京から援軍に来ている。病院まで遠いので送り迎えが私の仕事。病院に行くたびに人の多さ、車の混雑ぶりに驚く。秋田市郊外にある病院に、市の人口のあらかたの人が集まっている、と錯覚するほどだ。病院の先には巨大なショッピングモールがあるから秋田市民の何割かは確実にこの周辺にたむろしているわけだ。市の真ん中にできた新しい美術館より、市民はこちらの郊外の施設のほうが重要なのだ。今日も仕事の合間を縫って、送り迎えの1日になりそうだ。

10月1日 どうにか月末をクリアーした。いやクリアーではないか、ヨロヨロと通過というところ。クリアーと言っても資金繰りでなく「事務仕事」なのが泣ける。さあ10月だ。1年で10月が一番好き。誕生月でもあるし食べ物もおいしい。秋の山も紅葉で美しさのピークを迎える。リンゴの収穫も待ち遠しい。この1年間、昼はリンゴを貫き通した。おかげで10キロ以上体重を落とせたので、リンゴに足を向けて寝られないのだ。増田町を通ると、必ずリンゴの実り具合をチェックする。もう出まわっている品種もあるようだ。話題の「紅ほっぺ」も早く食べてみたい。すっかりこの1年でリンゴ通になった。大量買い出しは10月中旬あたりかな。

10月2日 10月1日は自分にとって特別な日になりそうだ。それはまあ個人的なことなので横に置くが、この日、経理などに使っているパソコンが新しくなった。ウインドウズ7以降のものでないと経理の新しいソフトが入らないため。山仲間のSさんがすべてを差配。応援にはSシェフも駆けつけ、そのまま買い物に出掛け、Sシェフの即席料理で宴会とあいなった。まったくの予定外だが、こういう突然の飲み会というのが一番楽しい。いわば路上で1万円拾った気分? いやいや警察に届けろよ、ジブン。ゆで卵の殻がうまく向けずイライラ。それした以外はご機嫌な3人宴会。こういうケースが今後増えていきそうな10月1日……。

10月3日 ずっと本とも映画とも無縁の生活。読書や映画を楽しめるのは、たぶんまだ1、2カ月先だろう。2階のシャチョー室から、主戦場になった1階仕事場にCDプレやーを自宅から持ち込んだ。そのぐらいの余裕はできてきたのだが、音楽でもないと気がめいってしまう。窮状を見かねていろんな人たちが来てくれるのも、チョーうれしい。今日あたりから、本の編集作業にも本格的に着手しなければ。それにしても仕事をセーブするのは難しい。セーブするためにはまずダイエットをしなければならない。5,6人が食べていけるような仕組みを作って長くやってきたので、人員が減っても仕事量は変わらない。これじゃダメ。でも仕事を断るのには勇気がいる。

10月4日 この1,2ヶ月間の暗闘(まだ続いているのだが)を思うと幾分かは1週間の過ぎるのが早くなった、ような気がする。天高く馬肥ゆる秋。四六時中、机の前でPCと格闘する異様な状態は、もう1か月は続きそうだ。でも、なんとなく仕事の全体像と将来のビジョンは見えてきた。なにごとも形からはいるタイプなので、仕事環境を一挙に変えたいのだが、「性急にやれば民主党政権になっちゃうよ」という友人のアドバイスで、それは封印。優先順位の上から、まずはコツコツこなしていくしかない。
(あ)

No665

未来の働き方を考えよう
(文藝春秋)
ちきりん

 最近、若者の「仕事」と「ライフスタイル」に興味がある。団塊の世代といわれる私たちと若者たちの違いは「仕事」や「人生設計」への意識だ。その新しい働き方や生き方を模索する若者たちを知る格好のテキストが、本書だ。著者の主張はこうだ。「ごく少数の先進国が世界を牛耳る」という歴史的枠組みは終わった。大企業や国といった組織から個人、ネットワークへと世界はパワーシフトを起こしている。もう、だれも予測できない未来のために今をがまんする生き方は納得できない。不動産も子どももいらない。楽しいことだけして暮らしたい、というのが著者の主張だ。私自身、大学を途中で辞め秋田で出版社をはじめた。起業という言葉すらなかった時代だ。とはいうものの時代は光り輝く希望にあふれていた。今は逆。不況や低収入は当たり前。明るい未来は感じられない。それでもITや携帯を駆使して生きる現代は、その昔よりずっと平等で豊かだ。困難があれば、その問題解決のために働けばいい。ブログやツイッターを駆使して自分を主張することもできる。それが世界をポジティブな方向に変えていく。旧来の価値観でははかれない若者たちの、ライフスタイルや働き方の革命は、もうはじまっている。本書を読むとそれがよく分かる。それにしてもこの著者、男なのか女なのか最後まで分からない。料理が趣味だというから女性なのだろうか。日本で最も人気のあるブログを運営する人、というぐらいしか分からない、これもネット時代の特徴か。

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