Vol.673 13年10月12日 週刊あんばい一本勝負 No.666


少しは余裕が出てきた秋の夕暮れ

10月5日 このところ土曜日は決まって経理事務。好きでも嫌いでもない。仕事だから、必要だからやっている。それでも数字をいじくっていると、なんだか今まで知らなかった自分の生活や行動の「舞台裏」が浮かび上がってくるから、侮れない。数字の魔力かもしれない。こうした感覚は今までの人生で味わったことがない。数字から浮かび上がる人生なんて想定外だ。黙々と伝票と向き合っているうち引き込まれて、もっともっと伝票がほしくなる、なんて不思議な感覚だ。でも土曜日くらいは遊んでいたい。

10月6日 習慣になった日曜登山は太平山系の馬場目岳から赤倉岳への縦走。ずっと体調がいいし、技術も体力も少しずつ向上している。いつものように軽い気持ちで登り始めた。どこか侮っていた。馬場目の3時間は急峻な登りの連続で、さすが大平山系と感心する余裕もあったが、そこから赤倉への縦走路のアップダウンの長いこと。結局8時間近くかかって、ようやく旭又登山口に降りてきた。きつかった。慢心さをガツンとやられた気分。写真をとったり景色を楽しむ余裕はなく、ましてやキジうちの余裕もなかった。こんな状態でもキノコを見つけると嬉々としてヤブニ入っていく仲間たちの体力にはほとほと感服。山頂ランチでさっそく採ったナメコのみそ汁をごちそうになった。身体にしみ込むほどうまかった。

10月7日 昨日の山の疲れによるものかもしれない。かなり奇妙な、今でもはっきり思い出せる夢をみた。なぜか変装(スーツにサングラス)してクリーニング屋に行き、自転車で帰る途中、学生時代の友人と何十年振りかで会った。その友人の話に乗せられて詐欺にあい、自分の無罪を証明するために学級委員のクリームシチュー・上田に訴えるが、相手にしてもらえない……といったあらすじ。もっと細部があるのだがあまりにリアルなので省略。登場人物や小物のひとつひとつに、たぶんみんな意味がありそうだ。良い夢じゃないせいか、なんとなく寝ざめが悪い。忙しくなりそうな1週間の幕開きだ。がんばるぞ。

10月8日 少し仕事に余裕が持てるようになってきた。昨日は5時ぴったり仕事終了。でもまだ昼食を定時にとれるほどではない。午前中がけっこう忙しいのだ。注文や返品処理に午前中いっぱいがとられてしまう。自分の原稿を書いたり、編集業務や打ち合わせは、どうしても2の次というか、手が回らない。今日、初めて資源ゴミを捨ててきた。今までは業者任せにしていたもの。乾電池の量の多さにビックリ。やることなすこと、みんな新鮮だけど、何でもかんでも自分でやるというのは確かにしんどい。でも楽しい。

10月9日 しばらく本を読んでいない。余裕がないからだが、新聞の出版広告をみても「読みたい!」という本がみあたらない。それはここ2年間ぐらい続いているから一過性や好みの問題ではないような気がする。他人事ではないのだが、やはり出版界は、徐々に体力を失っているのではないだろうか。それはともかく事務仕事で机の前に垂れこめていると意外なことに気がついた。ノリとホッチキスの針とクリップの消費量がすごいのだ。こんな使うのか。セロテープはそれほどでもないのだがホッチキスの使用頻度がとくに高い。針を使わないホッチキスもあるのだが、これはまったくと言っていいほど役に立たない。身の回りには驚きがいっぱいだ。

10月10日 1か月単位で会社は動いている。それは常識だが、この流れや動きを把握するのに3カ月かかっても、まだ掌握しきれない。もう2カ月くらいかかるかな。銀行に行く日、ファックスで振替送金をする日、受注テーブルから請求書類を発送する日、返品処理に日々の注文発送、さらに掃除、ゴミ出し、来客接待から倉庫整理、備品調達まで、とにかくこま鼠のように動いている。すごい運動量だ。夜の散歩の距離を少し短くしたほどだ。1日働くとドッと疲れるが充実感にはまだほど遠い。機械的に身体が動いて、5時になれば仕事が終わる、という日々が今の理想だ。

10月11日 散歩の途中、近所にある外国人2人がやっているカフェに入った。ウイスキーを3杯呑み、ご機嫌でその先にある「ちょっと気になる店」にも勢いで入ってしまった。意外にも(というのは失礼か)ハワイアンな料理を食べさせる、なかなか使えそうな美味しい店だった。カフェのほうは店舗の大家さんが友人で、彼から行くように勧められていたもの。ハワイアンのほうは、なんだかよくわからないお店で、通るたびに一度は行ってみたいと思っていた。昨夜は魔が差したとしか言えない夜で、かなり酩酊した。今日は二日酔いだが、酒が飲めるほど余力がある、ともいえる。近所にある外国に行けば、わざわざ海外旅行に行く必要ないと悟った一夜。
(あ)

No666

旗を立てて生きる
(晶文社)
イケダハヤト

 晶文社の「就職しないで生きるには」シリーズを感動しながら読んだのは30代だったかしら。シリーズのほとんどを読んだような記憶がある。大ファンだった。そのシリーズが30数余年たったいま同じ版元からよみがえった。慶賀にたえないが、手放しで喜んでばかりもいられない。昔のシリーズは、体制に順応したサラリーマンにならず、権力から自立して自由に生きよう、という主張がメインだった。その根幹の主張は本書も同じなのだが、背景にある時代状況があまりに違う。同じシリーズでも比べるのには無理がある。誰でもが就職できた時代の「自由」や「働き方」と、現在のそれは置かれた状況がまるで違うから比べようがない。就職自体が難しく狭き門になった今、若者たちは何を目印に社会に出ていけばいいのか、その答えは誰にもわからない。著者は86年生まれ。新卒で入社した大企業を1年待たず退職した経験を持つ。現在の職業は「プロブロガー」。これで食べられるのか、それは本書を読んでもらうとして、やはり「働き方」のキーワードは「ソーシャルウェブ」だ。この前の本でも著者は「年収150万円で僕らは自由に生きていく」という本を書いている。これからの時代の働き方とは、問題意識を持って、おかしいものをおかしいと声高らかに「旗を立てること」だという。働き方というよりも若者たちの新しい「生き方」へのチャレンジといってもいいかもしれない。

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