Vol.675 13年10月26日 週刊あんばい一本勝負 No.668


どうにか地獄の底から這い上がった気がする日々

10月20日 駒ヶ岳、栗駒山と2回連続で山が中止になっているから2週間ぶりの山行は県南にある大仏岳。初めて登る山。けっこうきつかったが、下山後の温泉で風呂道具一式がすっぽりなくなっていることに気がついた。こっちのことのほうがショックだ。2週間前の馬場目岳の温泉では確かにあった。ということはあの温泉で忘れたことに2週間、気がつかずに過ごしたということ。風呂道具を温泉に忘れてくることはこれまでも何度かあった。すぐに気がついて電話をして送ってもらっていた。それが今回は忘れたこと事態を忘れていた。このダメージは大きいなあ。わが近未来をいやがうえにも想像してしまう。それにしても大仏岳、雨の中の山歩きだったが、いい山で楽しかった。でもこの山にはもう来ることはないだろう。林道が崩壊、山は荒れ放題、人が入った形跡がほとんどなかった。登山口まで1時間半近く林道を歩かなければならない山に行くには、普通でない勇気がいる。

10月21日 少しずつ1日の、毎週の、毎月の仕事のサイクルが理解できるようになってきた(半分くらいだけど)。重要なのは月曜日だ。これが仕事のハイライト。電話も注文も返品も来客もこの週初めに集中する、というのがわかった。朝のコーヒーを飲んでいるときから電話が鳴りだすのは月曜日だけ。週初めはできるだけ用事をいれず、スケジュールを空白にして、身体を開けておく。昨日、読売新聞全国版に「もやし屋」の広告を出したせいか、今日はとくに電話が多い。これからは新聞広告を出した次の日は朝早めに出社したり、出張は水曜日以降にしたり、1週間のスケジュールを微調整する工夫も必要だ。人任せにしていたから、こんなこともわからずに2階のシャチョー室でひとり鼻くそをほじくったりしていた。恥ずかしい。待っていた金森敦子さんの新刊『曽良旅日記を読む』(法政大学出版局)が出た。定価は5670円。ちょっと躊躇するが買うしかないなあ。

10月22日 今日は資源ゴミの日。知ってた? 月に2回あるのだが前半は乾電池がダメ。今日はOKなはずだが誰も捨てた形跡がない。なんだか自分だけ間違っているようで、持ち帰ってしまった。でも捨てる場所はあるから安心だ。近所のK工務店に持ち込めば処分してくれるのだ。Kさんには本当にお世話になっている。本業は水回り専門業者だがゴミ処分からカギの付け替え、電気修理やカーペット交換、まるで便利屋さんのように何でもお任せだ。本当に助かっている。今月末からは家の風呂やトイレのリフォームをするのだが、建てた住宅会社はやめ、Kさんにリフォームを頼むことにした。近所にこうした人がいると心強い。地震や火事があってもKさんのところに駆け込めば何とかなる、とまで思っているほど。

10月23日 昨日に引き続き今日も資源ゴミ(金属のみ)の日。この金属というのが何を指すかよくわからない。とりあえず分別不能だった鉛筆削り機やマグカップ、秤やボールペンなどをいっしょくたにして捨ててしまった。だめなら回収して行かないだろうから、その時は引き取ってくるつもり。何でも自分でやってみて頭で理解していることと身体を使って実践することは天と地ほど違う、ということがわかった。とくに銀行関係はそうだ。準備万端、ミスのないようにシュミレーションして出かけても、必ず訂正や再記入を求められる。慣れるしかない。PC操作も経理関係の用語も頭でわかってもダメ。とにかく自分がやってみて身体に覚えさせるしかない。

10月24日 近所のスーパーに「玉ねぎとリンゴ」を買いに行くと、Rさんにバッタリ。先日、クマに襲われ九死に一生を得た山岳ガイドだ。鼻と目にクマに引きちぎられた跡が生々しく残っていたが、口調はいつものRさん。治療で日赤病院に通っているのだそうだ。胸にもクマの爪あと4本が残っているというので、その場でTシャツをめくって見せてもらった。しかしなあ、混雑するスーパーのレジ前で、大の大人が裸でクマの傷跡の見せっこって、なにやってるんだろう。「復讐はしないの?」とRさんに訊いたら「別のクマにはもう会ったけど……まだ早いな」と意味不明な笑い。狙われるクマがかわいそうだ。

10月25日 2年間、日本農業新聞に「あんばいこうの読書日記」という連載を持たせてもらった。先日その最後の原稿を書き終わったら、「引き続き書評を担当してもらえないか」と編集者から連絡。これはうれしい。本の原稿を書いてお金がもらえるのは幸せ以外の何物でもない。とはいえ最近はなかなか読書の時間がとれない。机の脇には『だから荒野』『雨のなまえ』『水戦争』『お伊勢ものがたり』『剣術修行の旅日記』『流星ひとつ』といったツンドクだけの新刊本が、恨めしげにこちらをみている。今日も予定表はびっしりだ。毎週金曜日は学生アルバイトたちが倉庫整理にくるので送迎もある。家のリフォームがはじまったので風呂も夫婦で温泉だ。いやはや、すごいことになってるなあ。
(あ)

No668

安部公房とわたし
(講談社)
山口果林

 けっこうこうした文壇ゴシップ本に弱い。文壇にさらに芸能が加わると、もっと弱い。根がいやしいのだろうか。著者であるこの女優が安部公房の愛人であったことは、安部自身が生前から公然と噂されていたことで、そのこと自体は驚くことではない。さらにこの手の本の嚆矢として、吉行淳之介の愛人であった大塚何とかさんの手記が圧倒的に面白かった記憶がある。なにせ石原裕次郎との関係まで暴露する徹底ぶりで、これは迫力があったが、逆にこの本を読んでしまうと、後続の似たような本はどうしても損をしてしまうことになる。本書も、ほとんどの内容が、それがどうしたの、と読み流してしまえるエピソードの集積だ。驚くような安部の側面や著者の葛藤はどこにもみあたらない。いや一つあったか。巻頭カラーグラビアに、安部が写したと思われる著者の若かりし頃のヘアーヌードが1枚載っている。これはすごい。安部公房に何の興味がなくても、この女優のヌード写真を見たさに、この本を買う人もいるのではないか、と思わせるほど迫力のある美しい写真だ。ポーズも取らず写し手を信頼しきったくつろいだヘアーヌードというのは、ちょっと珍しいのでは。カバーや章扉にもふんだんに著者の若いころの写真が使われている。どれもきれいで、好感の持てる女性なのだが、本を読むと、なんだかちょっと印象が変わる。このへんは微妙なところだなあ。

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