Vol.683 13年12月21日 | 週刊あんばい一本勝負 No.676 |
備忘録を忘れてしまう年の暮れ | |
12月15日 今日は「靴納め」の日。ホームグランドの太平山前岳に登る予定だったが、吹雪予報のため直前に中止。すっかり登山装備をして出発直前にPCをひらいて中止を知った。携帯への連絡は前日にあったらしいが、こちらはケータイ不携帯なので知らなかった。携帯は旅に出るときしか持たない。こういう緊急時には、いろんな人に迷惑をかけてしまうからちゃんと持とう、とは思わないのがアマノジャクなところだ。でも、なんとか既存の通信手段でうまくコミュニケーションをとる方法を考えなくちゃ。携帯を持たないのは思想的な理由などではない。基本的に電話が嫌い、というだけだ。電話にあまりいい記憶がない。いちおう昔からスマホは持っているのだが、実はふだんは電源を切っている。しょうがない、今日は一日じっくり仕事でもしようか。夜はモモヒキーズの忘年会。 12月16日 毎晩ベッドに入るのが楽しみだ。沢木耕太郎の『流星ひとつ』を1章ずつ読んでいるからだ。この本が予想に反して(失礼)、面白い。1979年、引退したばかりの27歳の藤圭子をインタヴューしたノンフィクション。藤圭子の自殺を契機に30年の時を経て出版されたものだ。藤の死がなければ、たぶん光を浴びる機会が永遠に失われていたかもしれない沢木の「オクラ入り作品」だ。そのへんの経緯は「あとがき」に詳しいが、地の文をまじえず会話だけで成り立つ作品は新鮮でかつ衝撃的。藤圭子という存在が単に「精神を病み、奇行を繰り返し、自殺した元歌手」などといった言葉で片付けられる存在でないことが、この本を読めばよくわかる。 12月17日 DM注文がまとまって入ったため、100件近い発送を一人でこなした。「こなした」という言い方はいかにも自慢げだが、そうです自慢しています。来客も多かったが、口はともかく手は発送作業を継続したから、非礼とはいえエライぞ、ジブン。結果、夜の9時近くまでかって全作業完了。いや正確にはある1件を除いて、だ。この1件は北海道利尻島の方。なんと宅配便のコンピュータ・システムが拒否反応を起こしてしまったのだ。別途「中継地費用」がかかる、という。調べると1000円近く余分な送料が確かに発生する。うちは送料無料が建前で、受注管理は中継地費用を上乗せできるフォームになっていない。利尻の読者には今日諾否の電話を入れてみるつもりだ。沖縄でもこんなことがないのに日本もけっこう広いんだなあ。 12月18日 ちょっと早い気もするが、今日は事務所の大掃除。4人の学生アルバイトが来られる最後の日が今日だからだ。意外に思われるかもしれないが、今の学生はとにかく忙しい。就活の占める比重が大きいせいだろうが、冬休みも年末ギリギリまで授業があるらしい。ほとんど授業に出ない学生だったので、そのあたりのことはよくわからないが、昔の学生は「ヒマの塊」のような存在だったもんなあ。大掃除が終われば彼らと忘年会だ。駅前チェーン居酒屋はもう飽きたので、今日はシャチョー室宴会だ。料理は学生用「大食」メニューを、Sシェフと、同じく山仲間のパテシエTさんがケータリングしてくれる。学生とつきあっているとバイト代より飲食代のほうがかさむ。甘やかしすぎだと思うが、彼らから学ぶことも大きい。これも授業料だ。 12月19日 面白いといえば書いた人に失礼なのだが興味そそる原稿が届いた。最初の数ページを読んだだけで「面白い」と思ったのだが、中身は生死にかかわるハードな内容なので、軽率な判断を拒絶する重いものだ。それなのにバタバタしていて、じっくり続きが読めず、出版できるかどうかの最終判断ができずにいる。内容は問題ないのだが、出すといろんな反応があるだろう。それがプラスマイナス、どちららに針が振れるのか、まったく判断がつかない。小舎の前に出版を打診した出版社2社から断られている。それもなんとなくわかる。わかるが、そのままにはしておけないと感じさせる何かを持っている。ちょっと気分を変えて、外に出て静かな場所で読んでみよう。そして結論を出そうと思っている。 12月20日 毎日、新しいことを一つでも覚えていく、というのは新鮮だ。ここ数カ月はそんな日々だったのだが、どうやら一段落。いつもの怠惰な日々に逆戻りしつつある。明日やる予定、やってみたいことを、前日にメモする。当日になると決まって予想外の電話や来客で手が回らなくなる。それが続くと予定や目的そのものをいつの間にか忘れてしまう。夜の散歩はそうした忘却の彼方の「忘れ物」を思い出させてくれる重要儀式なのだが、この天候ではままならない。備忘録には旅行が効果的、ということも経験上知っているのだが、枕の違うところで寝るのが煩わしい。とにかく忘れないようにメモをとる習慣はあるのだが、その安心感でメモがどこなのか忘れてしまうのだから、世話はない。 (あ)
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