Vol.686 14年1月11日 週刊あんばい一本勝負 No.679


仕事がうれしい年初め

1月4日 世間様もモゾモゾと動き出したようだ。いつまでもなぬるま湯に浸かっていられない。今日からこちらも活動開始。朝から近所の(といってもザブーン前の)妙見山へ。初詣を兼ねた景気づけ山行だ。午後からは学生アルバイトが来る。初仕事というほどのものでもないが仕事前の下準備をしてもらうため。正直なところ体調はまだ完ぺきではない(ときおり頭がボーっとして身体の芯がダルい)。動き出せば調子も上向きになるはず、なってほしい、なるゾォー。山でひとあせかいて、身体をシャッキッとさせて気持を立て直したい。今年もやっぱり山の世話になりそうだ。

1月5日 仕事始めにやることは決まっている。支払調書を作成し、著者やデザイナーへ送ること。源泉徴収の支払票だ。年1回、出版社が行わなければならない大事な作業なのだが、小生がやるのは初めてだ。明日になってからでは何が起きるか分からない。で正月中に準備作業をしていたのだが案の定、PC作業でフリーズしてしまった。急きょ学生アルバイトM君に来てもらい、どうにかクリアーした。フリーズの原因がフォント印字(様式)の問題だった。これは盲点だった。フォントといえば今日の朝日新聞に「高橋悠治ピアノ・リサイタル」の広告。その題字フォントは平野甲賀さん。どんな遠くからでも平野さんのフォントはすぐわかる。バランスよく品格があり美しい。印刷用フォントにも採用されているほどだが手書きの平野文字は別格で「凄み」ある美しさだ。

1月6日 仕事始めがうれしいなんて近年なかったことだ。仕事の細部まで自分がコントロールできる状態なので、それが心地よい原因なのだろう。でも新年一番の仕事は今日の朝のゴミだしだ。45リットル4袋は、たぶん一年で最も多い量で、これは家と事務所の両方の分だ。ゴミすて2往復の後は雪かき。いつもより入念に家と事務所の雪寄せをしてコーヒータイム。火傷しそうなほど熱い自作ラテを飲みながら日記を書く。今年もどうぞよろしくご愛顧のほどを。

1月7日 事務系の仕事に関しては9割がた、支障なくこなせるようになった。事務系仕事が性にあってるなんて想定外だったなあ。今月は5,6本の新刊編集の仕事が参入予定だ。新年早々かなりハードな日々になりそうだ。ルーチン仕事には誰がやっても同じ「ルール」があるから慣れさえすればだれでもやれる。編集にはそれがない。サボりたければいくらサボってもいいし、手抜きも自由だ。本にそのすべてが表れてしまうのだが。だからこれからは少しじっくり時間をかけて本を作るのも悪くはないなと思いはじめている。

1月8日 暮れにいただいた椿のつぼみが開きはじめた。あの赤は毒々しくて苦手だったが、寒くて無機質な事務所に置けば、ぬくもりさえ感じられるから不思議だ。唐突だが、「リタイアした人はなぜ南国に行きたがるのか」を考察した、ある人の文章を思い出した。「退職したらゆっくり南の島にでも行って…」というあれ。なかなか面白い見解だったが、結論だけ言うと、要するに多くの人は自分の時間を売って生計を立てている。南の島には「売らなくていい時間」があり、その象徴として使われている、というのだ。芸能人が正月にハワイに行くのも「売らない時間」がそこにあるからだ。特段目新しい考えでもないと思うが、サラリーマンというのは「自分の時間を売る職業」というのは確かだろうな。椿のつぼみは今日も2輪ほど花をつけそうだ。

1月9日 1年で一番ユウウツな「健康診断」の日。去年より体重が10キロ落ちているので、その点は自信満々なのだが、かんじんの血圧が140台で玉ねぎ効果まったくなし、というショッキングな結果だった。下のほうが90台から70台に下がっているから、これはこれで効果があった、というべきなのかもしれないが1週間後の結果発表がこれまたユウウツだ。外は吹雪。数か月前なら仕事を人任せにして、「青空」をみるためだけに東京出張なんかをでっち上げていたかも。ここ数カ月は「空白の時間帯」というのがほとんどない状態だ。時間が空けば、たまった経理処理があり、これでとぶように時間は過ぎていく。のんびりしたいが、時間ができればやっぱり仕事をしてるんだろうな。

1月10日 チュニジアで働いている友人が訪ねてきた。事務所の2階でSシェフの料理で歓迎レセプションを開く。レセプションというのは大げさだが、もし自分が客なら、こんなふうにおもてなしされてみたい、という形の歓迎の方法を考えた結果だ。酒や料理を考え、調理や演出をSシェフに仕切ってもらった。Sシェフはアメリカ駐在時代に何度もホームパーティを経験しているので、こうした小パーティは手なれたもの。こうした自前で客をもてなすパーティがこれからは増えていくんだろうな。世の中の大きな流れは外飲みよりもホームパーティなのは間違いない。駅前居酒屋チェーンは学生とのコンパ専用だ、わるいけど。
(あ)

No679

捨てる女
(本の雑誌社)
内澤旬子

 待望久しい新刊だ。あの名著『身体のいいなり』『飼い喰い』からこの本まで、好調に走り続けているな、ウチザワ。『飼い喰い』は近いうちに文庫になるだろうから、そこでまた読もうかと思っているほど面白かった。でもやっぱり『身体のいいなり』が圧巻だったなあ。本書を読みだして、あれっ、と思ったのは、新刊なのに記述が古いこと。前2著とダブってしまう記述が至る所にあるし、東日本大震災の渦中に書かれた文章が多い。2010年から「本の雑誌」に連載されたものをまとめたものだった。そうか、それで前の本とダブる記述が多くなってしまったのか。連載中に震災が起き、彼女の気持ちも、テーマそのものへの集中度が薄れ、身辺雑記ふうエッセイにシフトせざるを得なかったのかもしれない。震災など関係ない、と唯我独尊、「捨てる世界」にトコトンはまり込んでいく、という展開も期待したのだが、やはりこの未曾有の事件を前にして、正直にたじろいでいる、著者の心理が至る所に顔を出す。まあそれも彼女らしいが。豚を飼っているときや、病気と向き合っているときの「真剣さ」が、本書では幾分薄らいでしまった。テーマがテーマだしね。一番インパクトがあるのは「あとがき」だった。ここで彼女は、物を捨て倒してしまった後悔と、東京を捨て別の場所へ移住することを、さらりとカミングアウトしている。

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