Vol.71 02年1月5日号 週刊あんばい一本勝負 No.68


明けましておめでとうございます

 本年もよろしくお願い申し上げます。私どもは年賀状を欠礼しておりますので、この場を借りまして新年のご挨拶に代えさせていただきます。
 旧年中はお世話になりました。
 毎年、本の世界から活況が失われていくのを肌身で感じております。
 小舎では数年前から、このままでは書店も取次も著者も版元も印刷所さえも「ひび割れのひどい泥舟」に乗って、みんあで沈んでしまうことに恐怖を覚え、思い切って舟から降り、小さなイカダに乗り移る準備をしてまいりました。まだすべての荷を移し終えたわけではないので偉そうなことは言えませんが、半ば沈みつつある舟からはかろうじて脱出できたようです。しかし、小さなイカダで大海原を航海するのは不安だらけで、ときには自暴自棄に陥ったりもしました。今年も波の荒い一年になるのは間違いないようです。
 おかげさまで旧年までは売り上げ目標を更新し、どうにか航海をつづけることができそうですが、これとてひとたび大きな波に遭遇すれば一瞬で海の藻屑となるのは目に見えています。
 今年は、本を作って生きていこうと決心をした20代後半の自分の「原点」に立ち返って、足下を見つめ直し仕事をしていこう、と思っています。不安の中から希望のかけらを拾い出し、初めの志を忘れずに一歩ずつ前に進んでいこうと思っています。かわらずのご鞭撻、ご指導のほどよろしくお願いいたします。
(あ)

お正月の事務所です

正月中の出来事

 年を越しても毎日「今日の出来事」はUPしていたのですが、実はサーバーの故障のため消えてしまいました。あらためてお正月中のことを書いてみます。今年は息子が大学受験の年で暮れも押し詰まってから帰ってきました。二日にはもう一人暮らしのアパートに帰っていったのですが、毎日のように雷鳴とどろき吹雪が吹き荒れ、湯沢の実家に二時間ほど行って来た以外は家族三人ひっそりと家で過ごしました。お正月といってもいつもよりちょっぴり遅寝をするくらいでうちは何の特別なこともありません。本は沢木耕太郎さんの『世界は「使われなかった人生」であふれている』(暮しの手帖社)を読みました。部屋で映画を観るようになったので映画の本を最近よく読んでいます。観たビデオ映画は『パリ空港の人々』『地獄に堕ちた勇者ども』『エデンの東』『太陽がいっぱい』といったもので「パリ空港」がなかなかしゃれていて印象に残っています。テレビでは箱根駅伝を全部観ました。深夜の「小沢征爾指揮ウィーンフィルニューイヤーコンサート」もちゃんと観ましたし、その後のスピルバーグのインタビューも最後まで観て感激しました。二日の日はなぜか事務所に個人や大口の二〇通ほどの注文がファックスや郵便ではいり、渡部七郎が出舎して全部片づけてくれ助かりました。三日の日には著者からかえってきたゲラが最終校なのに真っ赤になっていたので激怒して著者と正月早々怒鳴り合いのケンカをしました。しょっちゅうこんなことをしているのでどうってことはありませんが、お正月くらいは、と後から後味の悪い思いをしました。反省。まあ穏やかにのんびりと過ぎたお正月と言っていいと思います。
(あ)

暮れに吉永直子さんから届いた絵はがき・高田馬場です

新しい、お気に入りのカバン

 長老の渡部七郎におニューのカバンをあげたのは、実は気に入ったカバンを神保町のカバン屋でみつけ買ったからだ。私は職住近接なので事務所にでるときもカバンを持たない。せいぜいナイロン袋か紙袋で間に合ってしまう。そのため通勤用の仕事カバンにずっと憧れを持っている。必要ないのに良いカバンをみると無性に買いたくなる。このへんのイジョーな心理は曰く言い難いところである。カバンは写真のようなズック製のショルダーで実に手や肩になじむ。値段は一万九千円。毎日通勤三〇秒の事務所まで大事に担いでいく。うれしくて飲み屋に行くときも持っていく。他人に見せびらかしたいのではない。持っている自分に「なったことのないサラリーマン」の気分を味わわせて満足しているのである。やはりちょっとイジョーかな。
(あ)

これがお気に入り

県人会DM作戦、大ブレーキ

 去年の12月はじめ、100万円以上の予算を組み、満を持して出した秋田県人会へのダイレクトメールはほぼ空振り、大失敗に終わった。これほどまで返りが悪いとは露ほども思っていなかった。私の判断ミスである。秋田県の人口は130万人を切っている。ところが首都圏にすむ秋田県出身者の人口は130万人を超えている。この人たちこそ新しい小舎の「読者」である、という考えに基づいての大作戦だったが、あまりに無限定に間口を広げすぎたのかもしれない。もう少しリサーチをしてからリストを絞り込みだすべきだったと後悔している。しかし転んでもただでは起きないつもりだ。この失敗をもう一掘り深く分析して次の作戦につなげて行くつもりだ。みていてください。
(あ)

これが住所不定で戻ってきたDMの山

No.68

三茶日記(本の雑誌社)
坪内祐三

 日記と聞くだけでほとんどの本を買ってしまうほど「日記本」に弱いのだが、これは待望のもの。本がテーマになったお散歩エッセイとくれば一刻も早く読みたい。神保町の記述も多く行動半径が重なっているので、おぼえた喫茶店や本屋、食べ物やさんがたくさん出てくる。この日記を読んではじめてわかったのだが、この著者はかなり喧嘩っ早そうな感じで、その勢いが文章にもスピード感をあたえてプラスになっている。たとえば「超勉強法」の野口某なんていうのは、この著者が絡まなくても「かなり胡散臭いインチキ本を書くオッサン」というイメージは(すくなくとも私には)あったわけだが、正攻法できちんと批判してくれたことで勇気を得た読書人も多かったのではないか。「五体不満足」の乙武君が「20世紀の心に残った作家」(毎日新聞社)で谷崎潤一郎や村上春樹の上を行く23位になったことにブーイングする姿勢も健全で好ましい。田舎に住んでいるのでしらなかったけど文中に度々登場する「文ちゃん」というのは朝日の記者で奥さんなのだそうです。

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