Vol.820 16年8月20日 週刊あんばい一本勝負 No.812


ヘビ騒動でお盆は終わってしまった

8月13日 岩手県大船渡市にある五葉山の写真集をつくっている。登ってみたい山だ。江戸時代、仙台藩の「御用山」でヒノキやツガなどの林産資源が豊富だった。今はツツジとシャクナゲだけ。なぜか。シカがこの2つの植物だけは食べないからだ。シカが増えると山の草木花は食い尽くされてしまう。クマ情報も一つ。その動向に詳しい方たちに聞いたのだが、例年と違いクマの行動範囲がルーチンを外れ予測できなくなっているのだそうだ。里に出没するが山ではその姿がどこにもない忍者のような状態になっている。賢くなって人間の行動を冷静に分析、穀物飼料サイロのレバー操作までできるのだそうだ。ハンターたちが通報を受けて山に入っても空振りに終わる。山で確実に何かが起きている。

8月14日 学力テスト日本一の東成瀬の小学校の面白いレポートが載っているという情報で、アマゾンで週刊誌『女性セブン』8月11日号を買い求めた。アイドルグループSMAPの記事も載ってた。SMAPのコンサートの演出構成はすべて香取慎吾の手になるもので、彼が動かない限りSMAPはコンサートができない。香取こそSMAPのキーマンで、彼と木村拓哉の不仲が解散説の深層(真相)だ……といったことが書いてあった。もう解散はないと思っていたのに、女性セブンだけは取材を続けていた。解散騒ぎの1週間前の記事である。女性セブン恐るべし。

8月15日 夜の散歩途中、おもしろい光景に遭遇。街をヘルメット姿の自転車で走る外国人の宣教師(のような)2人組がいる。その若いアメリカ人女性2人が路上で小生と同じ年ぐらいの男をゲット、「お話し中」だった。あ〜あ捕まっちゃって、と同情を禁じえなかったのだが、信号待ちの間、彼らの交わしている会話を盗み聞ぎして状況がまったく逆なのに気が付いた。定年オヤジは自分のほうから外人を呼び止め、外国体験やイタリア語と英語の違いなどを自慢げに「講義」している。若い宣教師のほうはニコニコしているものの迷惑気な態度ありあり。早くその場を立ち去りたくて、こちらを見ては苦笑いを投げかけてくる。自分から積極的に話しかけ相手を辟易させ、二度と近づかないようにさせる、のにはいい手かもしれない。そんな深謀遠慮があったわけではないだろうが……。自慢話を聞いてくれる相手を探して街を徘徊する定年オヤジは怖いなあ。

8月16日 オリンピックを観つづける自分にうんざり。お盆中はTVをつけず本を読むことに。何を読もうか。ふだんなら絶対に手に取らない最新芥川賞作品『コンビニ人間』を選んだ。短いので数時間で読了。面白かったが、これが芥川賞の現実か。『火花』を慌てて読まなくてよかった。もう1冊は最新作・桐野夏生『猿の見る夢』を10時間余りで読破。夕食を食べる時間が惜しくなるほど面白い。芥川作家と「プロ度」の格が違う。内容は内館牧子『終わった人』とちょっと似ていてサラリーマン不倫物語。でもディテールの完成度や現代社会への考察が一回り大きく、登場人物にスケールと陰影がある。読み終わってもコーフンさめやらず寝床でもう一冊、話題の『やってはいけないウォ―キング』。

8月17日 家の玄関前でヘビをみた。玄関の階段で2日連続目撃、いずれも朝10時ころだ。あまりの暑さに下水周辺から出てきたのだろうか。1メートルはゆうにある茶色っぽい青大将。カミさんに知らせるとパニックになる。秘密裡に業者に相談していた矢先、家に出入りしているカミさんの友人がヘビと遭遇、カミさんに報告。えらいことになったと思ったら、「私、ヘビはけっこう好き」とカミさんは言うではないか。駆除を相談したSシェフも「ヘビは家の守り神。縁起がいいので殺すのはダメ」とたしなめられた。2日連続で間近で目撃した身としては複雑な気分。玄関を通るたびに極度な緊張が走る。

8月18日 散歩で郊外の農業用水を見ているので、水不足の深刻さを実感する。ニュースになっていないし話題にもならないが本当に大丈夫なのか不安だ。この2日間、雨が降った。もう少し必要なのだが、まあ、しょうがない。ちょっと雨が降っただけで大きな被害が出てしまうのは、山の保水力が落ちているからだろう。木を伐りすぎて山が荒れているのだ。こういったプリミティブなことにお金(予算)を使う国になってほしいのだが、地方は「東京のようになりたい」人たちだらけだ。この夏、何度か雪の残る山に登って、例年に比べてあまりに少ない雪や枯れている水源に愕然。山で起きていることは倍返しで下界を襲う。自然豊かで広大な北海道で自然災害が多いのは、そのことを物語っている。ところで、TVのオリンピック放送(BS)競技は公平性がある。昨日は10種競技とマラソン・スイミング(オープン・ウォーター)がおもしろかった。

8月19日 週日だが休みをとって森吉山・赤水渓谷を歩いてきた。全行程15キロの平坦な渓谷歩きだ。うち10キロは川の中をジャブジャブと歩く。暑くもなく寒くもない絶好のコンデションだった。靴は渓流用ゴム靴で、今日のためにモンベルのものを購入。思ったよりずっと歩きやすい。排水性がよく水でチャポチャポしない。軽くて滑らないし圧迫感もない。裸足に履く靴なのだが靴づれが数か所できてしまった。3人だけの山行だったがクマが出てきそうな山奥の川の中、笛と鈴だけが頼り。3時間弱でゴールの兎滝までたどり着いた。帰りは慣れもあり川を楽しむ余裕もできた。もっと暑い時期に来たかったなあ。秋になると川は冷たくて歩けない。いましかないタイミングだ。
(あ)

No.812

まっ直ぐに本を売る
(苦楽堂)
石橋毅史

そろそろ後継者に自分の会社をゆだねなければならない時期に入った。幸いなことに印刷所や銀行に借金もない。その点に問題はないのだが、これから未来の出版業界が「よくなる目」はほとんどない。たぶん悪くなる一方なのは間違いない。自分はおかげで無傷だが業界は満身創痍だ。そんな希望のない世界に後継者を放り込むのは気の毒で気が重い。そんな日々を送っているせいか最近は出版業界関連本をよく読むようになった。昔はまったく興味がなかったのに。著者の本は去年『口笛を吹きながら本を売る』を読んだ。業界紙「新文化」の編集長だった人だ。本書は業界で最近話題になっている書店との「直取引」について書かれた本だ。取次を通さず書店に直で本を卸す版元が増えているのだ。「トランスビュー方式」といわれる、ある会社の実践を取材したルポだ。直の目的は「書店の利益を増やすこと」であり「返品率を下げること」。書店が求める冊数を即日出荷し返品率は10パーセント台。トランスビューはこの方法を見事に成功させた出版社(取次店?)だ。いま本の流通、販売にも大きな地殻変動が起きているのだ。とはいっても小社のような田舎零細版元ははなっから取次に相手にされてはいなかった。だから、ここに書かれているようなことは40年前から実践していた、と胸を張ることもできる。だから驚くことはないもないのだが、そのへんは地方と都市を同一視しては問題があるのかもしれない。

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