Vol.860 17年6月3日 週刊あんばい一本勝負 No.852


1億個という数字的詐称

5月27日 昨日の歩数計は2万歩を記録。夜、山仲間と飲み会があるので、体重を増やしたくない一心で歩いた。飲み会はSシェフと長老Aの3人。場所はホームグランド「和食みなみ」。名目は(これが重要である)、無明舎階段手摺取り付け工事完成祝い。シャチョー室宴会で酔っぱらって階段から落ちたA長老が、その痛い体験から自ら施工業者を選び、一級建築士として手腕をいかんなく発揮して現場監督を務めて完成したもの。当事者の小生はいつ工事が終了したかも知らなかった。「みなみ」では最後の締めに「温麺」。これがすこぶる美味。  

5月28日 今年に入って4回目の八塩山。登山口に向かうまではどしゃ降りの雨。登山口でどうするか鳩首会議。雨がひどくなったら引き返そうと登り始めた。行きは2時間半、下山2時間の間、雨はまったくなかった。山はいつだって気まぐれだ。八塩山では必ずと言っていいほど動物と出あう。今日はもしかするとクマと出会ってしまいそうな嫌な予感。その恐れは当たらずとも遠からず。登山道に新しいでっかいクマの糞。横の木標識もかじりとられていた。「いい気になるなよ、ここは俺の縄張りだ」と自己主張するクマの気配が濃厚で怖かった。

5月29日 昨日の山行の疲労がうっすらと身体に残っている。これはこれで心地いい疲れだ。青空の月曜日は自然と活力もみなぎってくる。ようやく夏DM の編集作業が終わった。「ようやく」といっても昔と違って一人で5日間もあれば入稿の準備は完了だ。非デジタル時代なら、たぶん3、4人がかかりっきりで同じ時間がかかっていた作業量だ。短期間で編集可能なのはDTPのおかげだ。さらにメールなどの通信手段の技術革新があり、デザイナーや印刷所とのやり取りが100倍もスピーディになった。昔、総力を挙げて5人でやった仕事が今は一人で楽々やれてしまう。これにさらにAI(人工知能)の技術革新が近い将来加われば、30人の人材を必要とした仕事が、たった一人で楽々できる時代になる。老兵は去りゆくのみ。でも、その去り際が、わからない。

5月30日 毎年淡々と繰り返されているかわり映えのしない日常だが、今年はちょっと違う。忙しい。立ち止まって来し方を振り返る余裕もない。理由は不明だが、なぜか出版依頼が多く、それに比例するように企画(アイデア)もポコポコ湧き出てくる。何か大きな変化が自分の内部の中に起きていて、これまで感知できなかった微弱な電波にも反応できるようになったのかも。ってそれは都合よすぎる理屈か。本の売れない時代に企画がいくら湧き出しても実現性は低いのだが、それでも何もないよりはましだ。

5月31日 腰痛も収まったし歯の調子もいい。筋肉痛はないし内臓の不具合もない。身体のどこにも不調がないというのは、それだけでうれしい。夜もぐっすり眠られるし、こむら返りも起きない。寝るときにレッグウォーマーをするようになったせいだ。「ふくらはぎは第二の心臓」という内容の本が流行ったこともあった。暑くなるこの季節に毛糸のレッグウォーマーをつけて寝るのは苦痛だが、朝の目覚めはすこぶるいいからやめられない。ふくらはぎを冷やさないというのは案外身体にとっては正解なのかも。

6月1日 朝から全県高校生文芸セミナーでお話をすることになっている。担当の先生が熱意あふれる方で、その情熱に動かされてしまった。教育というのは教師の役割(力)が大きい。20年ほど前、やはり全県の高校写真部の審査員をやらせてもらった。これも熱心な写真部顧問の先生がいて、その先生の指導する写真部員の作品は他を圧倒していた。その熱血先生にさらに影響を与えた先生(故人)がいて、その先生が指導した大曲農業高校の「老い」をテーマにした作品群は『長寿に学ぶ』という写真集として出版したほど。高校生の本というのは初めての経験で、編集者としても新鮮な体験だった。

6月2日 TVで「青汁に乳酸菌が1億個入っている」と女優が絶叫している。見るたびに不愉快になる。あの小さなヤクルトには1本200億個の乳酸菌が入っている。わずか100g程度のブルガリア・ヨーグルトにさえ乳酸菌は110億個だ。青汁の1億個というのは調味料か添加物レベルだ。笑ってしまうほど「少量」だ。タウリン1000mmg配合、なんていう数字のこけおどしにもう誰も驚かない。1000mmgは1gだ。でも「レモン50個分のビタミンC」といわれると、すごいかも、と思ってしまう。レモン1個にビタミンCは20mmg。ということは50個で1000mmg。これも同じ数字的詐称だ。レモン50個食べてもビタミンCはたったの1gしか摂れない。CMに出てくる数字を信じるほど馬鹿ではない、と思いながらも、「レモン50個分」には簡単に騙されてしまうのが消費者心理。騙されないためのリテラシーって大切だね。
(あ)

No.851

ルポ戦後縦断
(岩波現代文庫)
梶山季之

 ブラジル日本人移民の「勝ち組負け組抗争」の本を出した。その本の書評に、ある方が本書のことを紹介していた。昭和30年代の世相を語るうえで不可欠な主題を追求したトップ屋梶山季之の渾身のルポ15編が収められている。売春防止法から蒸発人間、産業スパイから被爆者運動、国鉄鶴見事件と、当時の週刊誌のトップ・スクープ記事がびっしりだ。梶山の好奇心の旺盛さには舌を巻くが、同時に記事を書く人間が社会を自由にしなやかに泳ぎ回り、真相に肉薄する臨場感と緊張感がヒリヒリとこちら側に伝わってくる。記者への熱いリスペクトがあった時代の息吹が行間からは透けて見えてくる。読者の側にも反骨や反権力への熱い渇望があったのだろう。本書の中で圧倒的に面白いのが「皇太子妃スクープ」だ。昭和30年、皇太子妃はほぼ旧華族の北白川肇子に決まり、とマスコミは信じて疑っていなかった。ところが梶山ら傑物ライターをそろえた週刊M誌だけは、別の民間候補がいることを独自に突き止めていた。社内の女性記者が、お妃の選考委員長である皇太子の教育係・小泉信三博士が、なんども正田家を訪れていることを知っていたからだ。お妃をスクープするためにマスコミは大量に皇太子の学友や学習院関係者を社員として入社させていた時代の話である。

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