Vol.861 17年6月10日 週刊あんばい一本勝負 No.852


ちょっと一息ついてみよう

6月3日 この週末は山行なし。もともと予定がないのだが、やること(デスクワーク)はいろいろある。来週は新刊が一本『「秋田の中の〈伊勢〉』と週末からは東京、台湾に行く。不在中にもう1本『増補改訂 苗村一族の千年史』が出る。来週早々からHPで奥村清明さんの『太平山5000日』という連載が始まる。今も毎日のように太平山に登り続けるアルピニストの記録だが、山行5000日って、ちょっと信じがたい数字だ。「太平山の主」と言われる元高校教師の記録である。乞うご期待。

6月4日 雨が降っている。このところずっと雨なので気分も沈みっぱなし。雨のせいではないのだが山行はなし。いつも山に連れて行ってくれるSシェフだって忙しい。いつまでも彼に頼りっきりというわけにはいかない。昔のように一人で身近な山に登るのも悪くないのかも。でも、クマの怖さを知った今となっては昔のように気軽に一人山行という気分にはなかなかならない。というわけで朝はゆっくり寝坊。午前中にカミさんの買い物のアッシーで、午後からは新聞の切り抜き、来週からHPで始まる奥村清明さんの『太平山5000日』の原稿チェックや掲載のための細かな準備作業をする。雨の日曜日はボンヤリ、穏やかに過ぎていく。こんな1日も必要だなあ、これからは。

6月5日 さあ今週ですよ、問題は。新刊が2本。夏のDM通信の郵送。そこに3泊4日の台湾旅行が見事に重なった。さらにHPで太平山の新連載が始まる。これも滑り出しが大事なので凡ミスは極力防ぎたい。朝日新聞の広告掲載もあり、こちらは注文数が気にかかる。凡ミスはいつもバタバタしているときに起きる。というのは定説だが実はそう単純ではない。凡ミスは「忙しくないとき」によく起きる。忙しいと何事にもセンシティブで、慎重、逆にミスは少ない。余裕があるのが危ないのだ。

6月6日 夕食後、録画したテレビなどを観ていると必ずと言っていいほど電話がかかってくる。本の注文ということはない。著者やマスコミ関係者からの写真借用、読者から本の批判や酔っ払いの意味不明な電話や物売りなどである。無視したいのだが緊急の大事な連絡だったら、と思うとどうしても映画を一時停止にして出てしまう。勧興そがれることおびただしい。昨夜はある放送局から写真借用依頼があり、保管庫に入って古い資料箱をひっくり返し始めたら11時近くになってしまった。けっきょく依頼写真は見つからず。まあ毎日がこんなことの繰り返しだ。

6月7日 週休3日制が話題になっている。少し唐突で驚いたが、どうやら宅配便業界のドライバー不足に端を発したもののようだ。でも先行企業として挙げられているユニクロやヤフーもすでに週4日勤務を実現しているという。ユニクロはブラック・イメージの払しょくなのだろうが、ヤフーは内実がどうなっているのか。週休2日制が定着した20年余り前、ある小さな出版社が売り上げ好調で「週休3日制」を導入し、話題になった。あの出版社は今も健在だが、まだ3日間休んでいるのだろうか。うちは家内制手工業のようなもので「週休3日制もありかな」と実は考えている。仕事は中身で、時間ではない、と頭ではわかっているのだが……。

6月8日 夏DMの発送がはじまる。忙しい1週間になりそうだが、小生、明後日から関西の友人たちと台湾旅行。昨日から県立美術館で「秋田の路面電車」の写真展が開催されている。県立博物館主催のイベントなのだが、うちからこの写真集の刊行が決まっている。そのなかに昭和30年代の駅前風景の珍しい写真が展示されている。路上で「中島のてっちゃ」が将棋を指している光景だ。博物館の担当学芸員も「これが目玉です(笑)」とのこと。今日はその目玉を見に行く予定だ。

6月9日 昨日の博物館は空振りだった。昭和30年代の秋田駅前で人力車夫たちに交じって秋田市の尺八放浪芸人だった「中島のてっちゃ」が将棋を指している写真、の真偽を確認に行ったのだが、まるで別人だった。よく考えるとてっちゃは重度の知的障害を持っている。お金を勘定することができなかったから、いくらなんでも将棋は無理だ。風体もまるで別人。てっちゃは相撲の豪風を少し栄養失調にしたような丸顔でまるぽちゃ系、写真の人物は中肉中背の普通の人。そばに置いてある尺八のみで誰かが即断してしまったのだろう。残念。
(あ)

No.852

夜の谷を行く
(文藝春秋)
桐野夏生

 桐野の小説はまずハズレがない。主人公が女性のケースがほとんどなので、こちらは感情移入が難しいのが難点だ。読みたいが「理解できない」「感情移入が難しい」という理由読んでいないものも多い。本書の主人公は連合赤軍で逮捕、以後ひっそりと都市の片隅で生きている女性だ。これなら同時代人だし普通の主婦の物語ではない。行けそうだなと思って読み始めたら、もうやめられない。物語のプロが、学生運動の犯罪者のその後を描くと、こんなふうになる。ただただ物語(小説の技術)の見事さにため息しか出ない。プロってすごい。物語世界にいつのまにか寄り添ってしまう読者感覚をキープしながら、彼女の創る世界の迷路に、いつのまにか引き込まれてしまう。物語の中で唯一無垢な存在に描かれる「フリーライター」の存在が気になった。「異常なほど正しい世界」にいる住人ふうで、それも物語の最後にどんでん返しで正体が明かされる。この作品が好きか嫌いかの判断は、このラストシーンの評価で別れるのかも。淡々と描かれる「元赤軍」だった女性のリアルな日常はノンフィクション作品を読んでいるようなリアリティを感じる。小説家ってすごい、と手もなく絶賛するしかない。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.857 5月13日号  ●vol.858 5月20日号  ●vol.859 5月27日号  ●vol.860 6月3日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ