Vol.96 02年6月29日号 週刊あんばい一本勝負 No.93


「んだんだ劇場」に三戸学クン登場

 7月からの「んだんだ劇場」に土崎中学校の数学教師、三戸学さんが連載を開始します。三戸さんは生まれたときからの重度の脳性まひで、詳しくはご本人の書いた下記のプロフィールを参照してほしいのですが、連載タイトルは「ケンジョウシャに訊きたい!」(仮題)といった感じのものを考えています。先日、障害者卓球大会に出場する彼の練習を見学してきたのですが、自由の利かない腕の使い方が「おそい!」と同じ障害者の先輩から怒られているところでした。「だって早く動かないから…」と三戸さんが言い訳すると、「相手は必ず弱点を攻めてくるんだから、ごちゃごちゃいうな」とやり返され、そこで私は思わず大笑いをしてしまいました。ユーモラスで意外な視点から健常者に切り込むエッセイを期待しています
(あ)
三戸 学(さんのへ まなぶ)
1976年秋田県八郎潟町生まれ。出産時に仮死状態で生まれたことが原因で、身体に「脳性マヒ」という障害を持つ。身体障害者手帳一種一級。小学校から高等学校まで、普通学校で過ごす。山形大学教育学部を卒業後、3度目の挑戦で「先生になりたい」という夢を実現する。現在、秋田市立土崎中学校の数学教師。誰もが住みやすい社会を目指して、自分でできることから、発信している。


少し緊張気味の三戸さん

博物館の主「ウメ」

 私が書いた『北前船おっかけ旅日記』の袖(カバーの折り返した部分)の写真に、私が抱き上げている真っ白い猫が写っています。「この猫は鐙が飼っているのか?」といろんな人に聞かれますが、私の猫ではありません。猫が住んでいるところは新潟県佐渡郡小木町宿根木の「佐渡國小木民俗博物館」。名前は「ウメ」と言います。玄関でお客さんを迎え、一緒に展示室を回ったりする人なつっこい猫で、なかなかの人気者のようです。
 この博物館は民俗学者の宮本常一が音頭をとって、小木町一帯から生活雑貨、漁労用具、北前船に関係のある船用品など、3万点もの民俗用具を集めて保存、展示しているもので、漁労用具と船大工道具・磯舟は国の重要有形民俗文化財に指定されています。「ウメ」の後ろの棚にたくさんの壺やかめが見えますが、これは博物館の展示品で、北前船が運んできた尾道の酢が入っていた壺などです。ここには日本でただ一艘、実物大の北前船「白山丸」もありますので、今年の夏は博物館見学がてら「ウメ」に会いに行く旅行をお奨めします。
(鐙)

なかなかの美猫「ウメ」

今週の花

 今週の花はアガパンサス、サンダーソニア、スカシユリ。調べてみると、今週は偶然にも3種類ともユリ科の花でした。紫色のアガパンサスはアフリカ原産なので、アフリカンリリーともいいますが、なぜか和名では紫君子蘭になります。オレンジ色のランプシェードのようなサンダーソニアも南アフリカが原産で、発見者のサンダーソンさんにちなんで名付けられたようです。3種類とも同じユリ科なのに花の形も咲き方も全く違います。でも、葉っぱの形はとてもよく似ていました。
(富)

No.93

眠れるラプンツェル(幻冬舎文庫)
山本文緒

 海外旅行に6冊ほどの本を持っていたったが、結局読んだのはこの本1冊のみ。旅が充実していれば本は読まない、ということに今回はじめて気がついた。この本も最後のニューヨーク成田間の帰りの機中で、面白い映画をやっていなかったので、やむなく読んだものだ。自分よりも年下の作家の本を読むことは滅多にない。なのにこの文庫をバックに忍ばせたのは、環境が変われば本の読み方にも変化があったほうが楽しい、と考えたせいだ。自分の知らない作家や世界と遭遇するのは旅の空がもっとも似つかわしい。結果、その思いは見事にあたり。あまり野心も欲望も強くない専業主婦がアパートの隣の12歳の少年と恋に落ちセックスまでしてしまう物語だが、えぐさもあざとさもない静かで上品、奥の深い作品である。こうしたショッキングな出来事を、できるだけ上質なオブラートに包み、きれいで爽やかに描いてみせることができるのは現代の若い作家の特権だろう。なにせ現実のほうが小説よりも何倍もの速度で異常を再生産しつづけているのだから、それに対抗する作家の想像力というのも中途半端では通用しない。別の作品も読んでみたい。

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