Vol.975 19年9月7日 週刊あんばい一本勝負 No.967


電子辞書のいいものが欲しい

8月31日 花火ツアー最終日。朝からトラブルでスケジュールの見直しを迫られピンチ。慣れないケータイを駆使してどうにか問題をクリアー。午前中は秋田今野商店を見学、昼は同じ刈和野にあるギャラリーゆうでランチ。ここでのランチが今回の旅のハイライト。夕方、全員を秋田空港に送り、レンタカー会社に車を返し、無事、すべての日程を終了。

9月1日 昨夜は熟睡。今日は月曜で月初め。ルーチンの打ち合わせをして、いつも通りの仕事に。…のつもりなのだが気持ちに反して体がついていかない。頭の中は問題の優先順位が決まらないままたゆたっている。編集中の本が3本ある。それぞれが問題を抱えていて、どうにも一筋縄ではいかない。頭は深い霧のかかった森の中のような状態で、前が見えないのだからいかんともしがたい。

9月2日 キャッシュレス時代の到来が議論されている。スマホを使って支払いする「行為」に違和感を持つ高齢者は多い。かくいう私もその一人だ。そもそもスマホをほとんど使わない派だから、もっと始末が悪い。先日訪ねたブラジルで驚いたのは、「誰も現金を持ち歩かない」社会習慣がすっかり定着していたことだ。50円の水を買うのもカードだし、屋台でアメ1個買ってもカードで決済する。キャッシュレス時代というより現金を持っていると泥棒に襲われる危険があるための対処法なのだ。そうしたインセンティブでもキャッシュレス時代は到来してしまう。

9月3日 大した売り上げもない零細会社なので消費税のことすっかり失念。いや経理はすべて専門家に任せているので「何も考えていなかった」というのが正しいか。「9月中に本を出してほしい」という要望もけっこうある。逆に10月からはしばらくはパタリと注文が途絶えることも予想される。じっと身を小さくして台風が過ぎるのを待つしかない。昔のように「出版は不況に強い」という神話はもうない。10月に店をたたむ版元も出てくるのではないだろうか。

9月4日 「ウソだろう」。エッセイストの池内紀さんが78歳で亡くなったという。いやいや地元新聞には今も毎週「菅江真澄」の連載が続いているし、先月は週刊ポストでうちの歩青至著『治療院の客』の書評を書いてくださったばかりだ。面識はないが手紙のやり取りはあった。うちの『ケセン語大辞典』を朝日新聞「今年一番感動した本」にとりあげてもらい3万6千円もする本があっという間に売り切れたこともあった。東大教授だったにもかかわらず早くに辞め、その東大のことをほとんどよく言うことがなかったのは、ご本人が東京外語大卒だったことと関係があったのだろうか。山や温泉をテーマにした本を多く書いたので「健康的文化人」と信じていた。あまりに早すぎる死だ。合掌。

9月5日 普段は電子辞書「パピルス」を使って仕事をしている。中身は「大辞林」だ。電子辞書が手元にあれば仕事に支障はない。でもちょっと小難しい専門的な本の編集に入ると、パピルスだけではまったく用が足らない。電子辞書を紙の辞典そのままをデータ化したものと思っている人もいるが、電子辞書は紙版の「要約」である。省略されている字句はかなり多いのだ。たとえば「神祇」という言葉がある。電子辞書にはこの言葉が載っていない。紙版にはもちろん載っているし、いい辞書になると「祇」の意味もちゃんと解説している。こんな初歩的なことも電子辞書を長年使ってみて、このごろようやく分かったこと。紙版をちゃんと100パーセント、データ化した電子辞書が欲しい。誰かいい電子辞書、教えてください。
(あ)

No.967

100年
ブラジルへ渡った100人の女性の物語

(サンパウロ新聞社編)
毎日新聞社

 2019年6月中旬から2週間、ブラジルに行ってきた。アマゾンの日本人移民の取材なのだが、今回は取材テーマを「女たちからみた移民」という視点にしぼって仕事をした。「移民もの」と言われる本には「女性お中心にした」ものが本当に少ない。移民は男のロマンであり、男たちの苦闘話がメインストリートを作っている。 だから本書は貴重な一書だ。著者も邦字紙として名前の通った新聞社出し、日本の版元も大手新聞社だ。きっと面白いに違いない、と本を探したのだが、ネット書店では軒並み売り切れ。5000円近い値がついている中古品もあった。やむなくサンパウロの友人に航空便で本書を送ってもらったのだが、読んで少しがっかり。100人100様とはならず、どれも似たような苦労話の連続だ。これなら別に女性でなくても男たちを取り上げても同じ。企画が先にあり、という薄い内容にとどまってしまった印象だ。こうした企画で最も重要なのは「書き手に女性を登用すること」だ。女性視点のない本になるのが最大の失敗なのだが、見事にその轍を踏んでしまったのは残念だ。

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