No36
あれッ、なんだか人並みに体力がついてきたかな
[焼石岳(秋田県東成瀬村・1548m――2013年7月7日)]
 2週間で2回、焼石岳に登ることになった。先々週は村が主催の花見登山で、30種類以上の高山植物を堪能(名前は覚えられなかったが)。今回は、定番のモモヒキーズ山行だ。
 秋田市のいつもの駐車場出発が午前4時。ということは朝3時には起きなければならない。たかが山歩きに、何か悲しくて、夜中に起きなければならないのか。60数余年の半生でも、こんな夜中に起きたのは、ほんの数えるほどしかない。かてて加えて今月はもうひとつ、朝3時起きの山行がある。2週後に予定している和賀岳だ。トホホ。 こうなると観念せざるをえない。朝早いと思うからプレッシャーで眠れなくなる。はなっから夜ッぴいて起きている、と覚悟を決めればいい。楽しみのための代償に早起きするだけ。気楽に行こう。と思いこめば、例えぬ寝付けなくとも、あきらめはつく。
 でも、やっぱり3時はきついよなァ。外は真っ暗、新聞も来ていない。コンビニの明るさがうそ寒く、おまけに小雨まで降っている。昨日から洪水警報が出るほど雨が降り続けているのだ。
 それでも何のためらいもなく3時に起きた。いつも通り熟睡はできなかったが、不思議と眠くない。眠れないと思いこんでいるだけで、ちゃんと睡眠をとっているのかもね。朝4時、予定通り、一人の欠席者もなく出発。モモヒキーズには「中止」という選択肢はないのか。どうしても無理そうな雨なら、近くの「代替の山」を探して登るクレイジー・サークルなのだ。
 現地登山口に6時前に到着。さすが前回のようにこの空だと駐車場は空っぽ。6時、小雨けむるなかを登りはじめた。ガスって景色はほとんど見えない。暑くもなく寒くもない。小さな渡渉が4か所ある。雨による増水が心配だったが、前回の雪解け水がないぶんだけ、水量はたいしたことはなかった。ちょっと体が重かったが、6合目の渡渉の前、休憩時間に近くの藪に入って「キジ撃ち」。けっこうな量の排便で、これで一挙に調子が良くなった。朝の便通というのは体調のバロメーターだ。

こんな渡渉が4か所ある

ガスって見晴らしは最低
 焼石は好天でも登山道はグジュグジュにぬかるんでいることが多い。他のメンバーは登山靴だったが、一人、意固地にスパイク長くつ。これが結果的には良かった。他のメンバーたちが登山靴にこだわったのは距離が長いので、長くつでは疲れが半端ではない、という理由からだ。でも川があり、登山道はドロドロ、いたるところに水が出ていたから、長くつのほうが正解だったようだ。
 しかし、前回から2週間しかたっていないのに山の表情は一変していた。雪がほとんど溶けてしまったのだ。さらにガスって風景が見えない。花がほとんど終わっていて、雪の中だった藪がいたるところで立ちあがっていた。
 登山道のアザミの葉トゲが容赦なくズボンの上から突き刺さってくる。こんなこともあるからアンダーパンツは必要なのか。女神山から使いはじめたハイドロ給水袋は水の臭いもうつらず快適だ。ガスコンロはなし。山頂に長い時間いる余裕がないからだ。
 黙々と歩き続けた。なにせ景色が見えない。渡渉を繰り返し、うまい水を飲み、岩場をよじ登り、頂上までぴったり5時間。
 下りは岩場を避けて、つぶ沼コースを下り、泉水沼でランチをした。そこからもとの東成瀬コース9合目の焼石神社分岐までもどって下山。午後からの川の増水が心配だった。天気予報が外れ、ガスはなかなか晴れない。夕方3時ころには山は薄暗くなりはじめた。登山口にたどりついたのは午後4時。都合10時間ほど歩いていた計算になる。朝4時出発は正解だった。けっして早い出発ではなかったのだ。
                    *
 温泉は前回と同じ「ジュネス温泉ホテルブラン」。入湯料が200円と県内では設備の割には安い温泉だ。どうしてこんな安い料金設定にしているんだろう?
 それにしても10時間はこたえた。ベテランたちからも「さすがに疲れたね」という本音が漏れるほど。女性陣にはあわや落伍か、という人までいたほどハードだった。やはり並の山とは違う。
 前回は秋田市に着いて車から降りたとたん、まってましたとばかり両足に痙攣がきた。今回はまるでどこも何ともない(翌日の筋肉痛も疲れもない)。
 あれっ、もしかすると人並みに自分も体力がつきつつあるのかな。

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい
●No.35 ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ

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