No.48
山よりも、ランチと温泉が楽しいこの季節
[森吉山(1454m・森吉町――2013年11月3日)]
 いまこの時期に、なんで森吉山なの? 花はとっくに終わっているし、滝は寒そうだし、雪もちらほら。おまけに雨模様で空はどんよりだ。秋田県でも人気の山なので、いまさら目新しいものは何もないし、私自身、何度も登っている。この時期にどうしても登りたい山では、ない。1週間後には無明舎40周年の記念イベントがある。この準備に忙殺されている真っただ中だから行かずに済ますこともできたのだが……。でも行かなければならない。いや行くのだ。今週末の記念イベントの舞台裏を支えてくれるのが、この山仲間たちモモヒキーズの人たちだ。当日、奮戦してくれる人たちとちゃんとコミュニケーションとるためにも、今日の森吉は大事な打ち合わせの場でもあるか。
 と、これは冗談だが実は来週の記念イベント(9日)の翌日の日曜登山は行けそうにない。ここで森吉山を欠席すると、私自身は3週間山に登れない状況をつくってしまう。登山は慣れだ。毎週山に身体をなじませておけば、身体は特別なトレーニングをしなくても高所に順応してくれる。寒さもケイレンも空腹も山となじんでいれば防げるものなのだ。
 というわけで森吉山なのだが、これがまったくの想定外の山だった。
阿仁ゴンドラ駅の横を抜けて登っていくとブナ帯キャンプ場がある。ここが登山口だ。実はこの登山口から登るのは初めてだ。ここから石森まではまったく観たことのない風景の中を歩く。新鮮なのも当然だ。まるで今までの森吉のイメージとは違い、緑豊かでブナも端正だ。人はほとんどいないし、登山道も整備されている。
 頂上までは2時間ちょっと。いつものように賽ノ河原のような頂上は吹きさらしで、おまけにガスって前が見えない。あまりに風が強いので山頂には1分もいられなかった。すぐに避難小屋まで下り、そこでランチ。この時期は山小屋があるかどうかが山を選ぶ重要な決め手になる。いつものように登山者は我々以外いないので山小屋は貸し切り状態だ。

山頂はガスって風が強い

山小屋はありがたい
 それにしてもこの頃は登っている途中からランチのことばかり考えるようになった。1年前までは登ることに精力を使い果たし、汗でひいて行く時に猛烈に手足が冷え、とてもランチを楽しむ余裕はなかった。無理やりおにぎりを身体に押し込んでいた。それがランチ命のようになってしまった。変われば変わるものだ。この時期はガスバーナー必携。熱いインスタント・ラーメンが最上のごちそうだ。熱い飲み物は心底ありがたい。
 モモヒキーズは役割分担ができている。コーヒーを沸かしてくれる人、甘もの専門の人、鍋料理人、酒屋さん、お点前の師匠までいる。私は食べるのが専門。
                        * 
 温泉はいつもの阿仁前田駅「クウィンス森吉」。駅の中にある温泉なのだが汽車の姿を観たことがない。これも変な話だ。こんどは湯あがりに時間をとって内陸線を観てみたい。
 それにしても温泉がありがたい季節になった。初冬の登山は身体が冷え切ってしまう。おもわず登りながら「今日の温泉、どこ?」と、かならず誰かが訊いてしまうほどだ。 温泉のありがたさが実感できる季節だが、山よりも温泉やランチのほうが気がかりな山登りというのも、ちょっと問題かもなあ。

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい
●No.35 ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ
●No.36 あれッ、なんだか人並みに体力がついてきたかな
●No.37 雷に追われ、山小屋泊まり、ガスっても岩手山は美しい
●No.38 県内最強のタフな山で、野立の誕生会
●No.39 中央アルプスで観光登山、それもまた楽し
●No.40 面白みはなくても、一度は登ってみたい虎毛山
●No.41 世界遺産の山で、会うのはへんなオジサンばかり
●No.42 ずっと踏破してみたかった、歴史の古道
●No.43 早池峰の、代替がきつかった、岩の山
●No.44 知っていそうで、知らなかった駒ヶ岳
●No.45 ストックを、持ち逃げされた秋の山伏
●No.46 侮ってしまった! やっぱり太平山系はきつい
●No.47 この山には、もう来られないかもしれない

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